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2023.02.10

海外PropTech 特別対談企画:PriceHubble創業者Stefanに聞く、テクノロジー企業2社の創業ストーリーと、スタートアップにおける組織作り(後編)


世界10か国で事業を展開するスイスの不動産テック企業「PriceHubble(プライスハブル)」社のファウンダーであるDr. Stefan Heitmann氏と、WealthPark社取締役副社長の間瀬裕介の特別対談企画です。(後編/全2回)

ゲストプロフィール

Stefan Heitmann
PriceHubble AG 創業者 兼 取締役会長/MoneyPark AG 創業者 兼 取締役CEO
不動産AI査定とデジタルソリューションを提供するPriceHubble AGの創業者 兼 取締役会長であり、またスイスで最も成功した住宅ローンプラットフォームMoneyPark AGの創業者 兼 取締役CEO。ドイツ国内外で、フィンテックや不動産テック等のスタートアップ企業への個人投資家でもある。2012年までチューリッヒのマッキンゼー・アンド・カンパニーでパートナーとして勤務。ミュンスター大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、シンガポール国立大学、ケルン大学で法律と経済学を学び、銀行法、企業法、金融法、証券法の博士号を取得。

目次

スタートアップ企業における組織作り

――別の質問をさせて下さい。あなたは、MoneyParkとPriceHubbleという2つの会社を作りましたが、組織作りやカルチャー形成などの観点で、どういった取り組みが大切だったと思われますか?また、過去を振り返った時に、こうしておけばよかった、と思う事はありますか?

Stefan:2012年にMoneyParkを立ち上げたときの事を今でもよく覚えています。私は、銀行とパートナーシップが組めず、顧客を集められなかったらどうしようと不安でいっぱいでした。つまり、当時の私が起業家として最も課題意識を持っていたのは、顧客や投資家、提携先といった会社の「外」の事だったのです。しかし、実際はその逆でした。 私の経験では(そして実際、多くの起業家にとっても)、最大の課題は、会社の内部からもたらされるものでした。そして今でも、これが一番難しいものだと思っています。

例えば、100%信頼できる共同創業者を見つけることは、簡単ではありません。創業者同士の対立はよくあることで、会社にとって大きなリスクです。簡単に会社を潰してしまうこともあります。私はこの点について多くを学び、PriceHubbleではMoneyParkと異なる方法で物事に取り組みました。

また、スタートアップにとって、優秀な人材を採用し、働き続けてもらうことは決して簡単なことではありません。会社の規模が大きくなればなるほど、明確なプロセスやガイドラインを作ることが重要になります。私はビジネスを構築し、成長させるプロセスを楽しんでいますが、特に創業間もない時期にはカオスが欠かせません。私自身はカオスをあまり気にしませんが、途中から入社する社員の多くは、あまり好きではありません。だから、50人くらいまでは多少アナーキーなやり方でもいいんですが、100人200人となると、しっかりとしたプロセスが必要になってきます。MoneyParkの経営においては、その点について十分に対応しきれていませんでした。十分に頼れるCEOや、私たちを本当に助けてくれる人が必要だったのです。

――どのようなタイミングで、しっかりとしたプロセスが必要だと気付いたのでしょうか?

Stefan:危機感を感じたタイミングを、今でもはっきりと覚えていますよ(笑)。私は、オフィスの休憩スペースでコーヒーを飲んでいて、たまたま居合わせた社員と話をしていました。見たことがなかった社員だったので、どの部門で働いているのかを聞いたところ、「住宅ローンのチームにいるよ」という事で、これから宜しくと伝えました。すると彼は、「君はいつ入社したの?どの部門にいるの?」と私に聞いてきたのです。なんと、彼は私のことを認識していませんでした。これは、単にCEOを知らないというだけの問題ではありません。会社のビジョンや方向性、どういった人と一緒に働いているのかが、ちゃんと浸透していないという事でもあります。これが、強い危機感とともに、採用や入社後オンボーディングのプロセスを変えなければ、と思ったタイミングです。

人は誰でも、強みと弱みがありますよね。私の強みは明らかに、内部の問題に気を取られすぎない事だと思います。私は、ビジョンを描き、ビジネスを構築し、顧客ニーズをふまえたプロダクトを作り、ストーリーを売り込むことが好きです。しかし会社を成功させるためには、それ以外の部分も非常に重要です。だから、組織を上手く機能させることが得意な人を探したのです。とても重要なことでした。PriceHubbleの共同創業者であるMarkusは、この点で素晴らしい人物で、お互い補完し合うことができます。これは一つの事例に過ぎませんが、他にもたくさんあります。創業者同士の衝突や摩擦を防ぐ方法についても、MoneyParkとPriceHubbleでは全く違う方法を取りました。私は今でも多くの間違いを犯しますが、一歩一歩学んでいくしかありません。それが、おそらく私にとってずっと続く道なのです。

―Markusの採用や協業が上手くいった理由は何だと思いますか?カルチャーフィットなのか、ミッションへの共感なのか、キャラクターによるものなのか、何でしょうか?

Stefan:そうですね。会社のミッションへの共感は間違いなく重要だと思います。ですが、やはり結局のところ、能力面でのフィットなのかもしれません。お互いを尊重しあい、根底にある価値観が同じであれば、話し合いで解決することができます。衝突することがあっても話し合えばいいんです。私たちは、性格的な面も含めて、いろいろな点で補完し合っていると思います。それは彼だけではありません。数年後、PriceHubbleのオペレーションを担っているCEOのJulienも入ってきました。彼は以前から一緒に仕事をしていた戦友です。その頃には、チームも大きく成長していました。PriceHubbleのカルチャーは、オープンなコラボレーションだと思うんです。そんな中で、私がよくやってしまう間違いは、会社やカルチャーフィットしない人にも固執してしまう事かもしれません。有効的に話し合って解決するか、去っていただくしか無いと思うんです。これは引き続きの課題ですね。

――会社のカルチャーを、どのように維持していますか?

Stefan:ビジョンを繰り返し共有し続けること。そして、よく働き、よく遊ぶこと。当社では、年に一度、全社イベントを開催しています。今年も、数カ月前にアムステルダムで開催したばかりです。可能な限り全社員を集めるようにしています。スイス本社だけではなく、全ての国から集まります。PriceHubbleは、それぞれの国の支社が独立して動くような組織にはしたくありません。国を超えて、横断的で無駄のない、統合されたチームでありたい、ひとつのグローバル・ファミリーにしたいと思っているんです。ですので、こういった機会が非常に重要になります。

グローバルテック企業から見た、日本市場の現状と未来

――日本で事業を始めることを決めたのはいつでしょうか?また、理由は何だったのでしょうか?

Stefan:日本に出ることを決めたのは、2019年末から2020年の頭くらいです。実は、最初は中国への進出を考えていたんです。私たちは、中国の大手保険会社であるPing An Groupのスタートアップ・プログラムに選ばれていました。彼らは、定期的に世界中から10社のスタートアップを選び、集めているんです。このプログラム自体は大変素晴らしい経験だったのですが、やはり中国のマーケットは特殊な要素が多く、データを集めることもとても難しい。ですので、この時点では中国への進出は控えていました。そんな時に、日本から来ていたとある会社から声がかかり、「この技術を日本に持ってこないか?」と仰っていただいたのです。

どういうわけかヨーロッパでは、日本市場は見落とされがちです。世界でも有数の富裕国であり、巨大な不動産市場があるのに不思議ですよね。また、私たちのようなデータ事業を行っている企業にとっては非常に重要ですが、質の高いデータも揃っています。しかし、言葉の壁や、日本でのビジネス慣習への適応は、スタートアップにとっては難易度が高いのも事実かもしれません。それでもなお、私は日本の市場に惚れ込みましたし、実はこの国に個人的なつながりもありました。だから、このマーケットを恐れることはなかったのです。

――ヨーロッパと日本のマーケットを比較して、テクノロジーのトレンドや浸透度など、違いを感じる点はありますか?

Stefan:ヨーロッパの方が、新しいテクノロジーやビジネスモデルの導入が早い傾向にありますね。特に、大手銀行など、法人側で差が大きいかもしれません。私がその理由を見極めるのは難しいと思っていますが、背景のひとつは競争環境にあると思います。日本では、一部の大手銀行が大きなシェアを占めていますが、ヨーロッパではネオバンクやチャレンジャーバンク、フィンテック企業が台頭し、大手金融機関からシェアを奪うなど、よりオープンな市場になっています。これは国によって異なり、スイスのように保守的な市場もあれば、イギリスやドイツのように競争が激しい国もあります。競争が激しい国では、自ら変化をしていかなければ、競争に負けてしまうという事です。

――テクノロジーの導入に関して、日本企業に対して何か提案はありますか?

Stefan:そうですね。日本企業の各社も、もっと勇気をもって、スピーディーに決断し、いろいろな事にチャレンジできるのではないでしょうか。そして、もっとお客さまを信じて、お客さまに決めてもらっていいのではないでしょうか。お客さまが、テクノロジーを活用した付加価値を求めているのであれば、それをやればいいと思うのです。私の経験では、エンドユーザーであるお客さまは、思っているよりも変化や新しいことを受け入れます。銀行員よりも変化に対してオープンかもしれません。エンドユーザーは、自分たちにとってのリスクよりも、実際に自分たちの役に立つかどうかに目を向けます。

なにも、米国のようなリスクを取ることが好きな、とにかく実験に積極的な文化にしていきましょうと申し上げている訳ではありません。ですが、リスクテイクに対してよりオープンになる事は、業界全体にとっても有益であり、お客様にも喜んでいただけるのではないでしょうか。

私たちは、引き続き日本のマーケットにコミットして事業を展開していきます。会社が提供できる最高のソリューションを、日本のお客様に展開していきたい。また、WealthPark さんとやっているように、他社との提携にも引き続き関心があり、協業やコラボレーションに対してオープンでありたいと思っています。

――ありがとうございます。最後に、PriceHubbleが3年後や5年後に何を目指しているのか、コメントいただけませんか?

Stefan:PriceHubbleを、銀行や不動産業界のための、先進的なデータソリューションのリーディングカンパニーにしたいと思っています。私たちの目標は、お客様の取引時のニーズを満たすだけでなく、購入から所有、売却までの不動産ライフサイクルのさまざまな段階を、デジタルにつなげていくことです。いずれ、世界中の不動産業と銀行産業が、より流動的で透明になると信じています。

前編はこちら

インタビュアー:WealthPark COO & CPO 間瀬 裕介

PriceHubble AG.

Founder Dr. Stefan Heitmann
Brandschenkestr. 30, 8001 Zurich
会社ホームページ: https://www.pricehubble.com/jp/

<本件に関するお問い合わせ先>

PriceHubble
Contact: https://www.pricehubble.com/jp/contact/

WealthPark株式会社 広報担当
Mail: pr@wealth-park.com

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