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2023.02.16

特別対談企画(前編)「このまちのために、私たちは何を残せるのか?」平田不動産代表が見据える空き家問題とその未来


「不動産管理会社のいまを知る」をテーマに、業界をリードするゲストをお迎えし、貴重なお話をお伺いする連載企画。第19回は、福井県小浜市で地域密着系の不動産管理業を展開する株式会社平田不動産 代表取締役社長 平田氏にお話を伺いました。前編では、平田氏のパーソナルストーリー、平田不動産入社時の思い出、当時社長を務めていた父親との葛藤などについてお話しいただきました。(前編/全2回)

ゲストプロフィール

株式会社平田不動産 代表取締役社長 平田 稔氏
福井県小浜市生まれ。京都府の美術学校を卒業した後、石川県金沢市に本社を構える不動産会社へ入社。賃貸仲介として金沢駅前店に配属され、日夜顧客対応に勤しむ。小松店で仲介はじめ管理業務を経験した後、2006年5月に平田不動産へ入社。2018年10月に代表取締役社長に就任し、平田不動産二代目社長となる。趣味は日光浴。夏には高浜町の海辺で、息子と真っ黒に日焼けするまで遊びまわる。

目次

「将来、僕が会社を継ぐ」子どもながらに不動産業を営む父を見て決意した

――今回はよろしくお願いします。会社についてお伺いする前に、平田社長のキャリアについて簡単に教えてください。

平田:僕は福井県小浜市に生まれ、誕生から3日後に、元銀行員の父が初代社長として平田不動産を立ち上げました。幼稚園のとき「将来、平田不動産を継ぐ」と子どもながらに話していたようです。

――そんな頃から、会社を継ぐことを意識していたのですね。

平田:はい、ただ高校卒業後は京都の美大に進学します。当時は、「橋の下で野宿してでもアートで食べていく」と話していましたが、父からは「何のために大学へ行かせたのかをよく考えなさい」と叱られました(笑)卒業後は、石川県の不動産会社へ新卒入社し、3年間修行をさせていただきました。その後小浜へ戻り、2006年に平田不動産へ入社しました。2018年に代表取締役社長に就任し、現在に至ります。

――迷いつつも、なぜ不動産の世界に足を踏み入れたのですか?

平田:分からないながら、可能性がある世界だと見ていました。しかし、父が不動産会社を経営していなかったらこの道には入らなかったでしょう。学校の先生の子どもが教師になるのと同じ感覚だと思います。あと、僕が関わってきたアート領域は感性の世界ということもあり、自分がつくったものを「素敵」のような一言で流されてしまうことが多かったのです。相手の嬉しい、悲しいなどのような感情と直結することがしたかったのもこの業界を選んだ理由の一つです。

故郷を離れ、金沢で武者修行した日々

――新入社員時代の仕事について教えてください。

平田:僕は賃貸仲介部の所属となり、最初に配属されたのは金沢駅前店でした。ここは駅前ということもあり、開店から閉店まで、予約の方だけでなく、飛び込みのお客様などひっきりなしに人がやってきます。朝から晩まで働き詰めでしたが、「明日はどんなお客様に会えるのだろうか」と夜道の星空を見上げながらドキドキしていました。お客様からは可愛がってもらいました。物件案内途中にそば屋さんへ。後日、居酒屋でご馳走してもらったり、ご成約した方のご自宅に招いてもらい晩飯をご一緒したりと、そんな時代でしたね。

――その後はどのような業務を経験しましたか?

平田:上司が「将来的に小浜へ帰るのであれば、似た環境を経験しておいた方がいい」と小松店へ行かせてくれました。当時の小松店は、規模としては平田不動産の半分ぐらいですが、賃貸仲介以外にも仲介管理や経理などの業務も経験できました。ちなみに、苦情対応は私一人の専業でした(笑)。

不動産管理業の修繕は小口で時間指定されるため、業者さんはすぐに動いてくれません。DIYショップに走り、店員さんに使い方を聞いて、壊れた配管を修理したりしてきました。この経験から「モノは原理を知れば直せる、人は失敗しても取り戻せる」ことを学びました。又、お詫び状(報告書)は毎日何枚も書いてお部屋に届けました。この時の経験は今でも活きています。

二代目のバトンは心身ともに成長するのを待って引き継がれた

――平田不動産へ入社し、働く社員たちを見る中でどのような印象を持ちましたか?

平田:スタッフは指示した通りにしっかりと動いてくれる一方で、仕事への向き合い方を見ていると危機感を覚えました。例えば、1年以上空き家の自社物件を見にもいかないこと、です。「なんでこんなことが起こっているのか」衝撃でした。まず取り組んだのは、全空室物件を回りました。そして、自分で掃除をして、それをオーナーさまに報告しました。

――当時の社長であるお父様の反応はいかがでしたか?

平田:父はブレーキ、僕はアクセルです。
僕が改革をしていくと、父からは「考えが足りない」「それをやっていく理由が分からない」と指摘をされました。例えば、業務効率を上げるために申込書も含めた全ての書類書式を変更すると、すかさず呼び出され、「長年のフォーマットをそんなにすぐに直すものではない」と指摘されました。

――代替わりの話がでてきたのは、どのタイミングでしょう。

平田: 向き合い方に変化が起こった時期だと思います。
以前はすぐに答えを出していました。仮にその段階で結論が出ていたとしても、あえて返事を翌日に持ち越し、一晩再考するようになりました。僕が30代に入ってから「早く代替わりしてくれ」と暗に父アプローチしていましたが、そういう時期にはバトンは渡されませんでした。

――ある意味、お父様の教育の成果が現れていたのでしょうか?

平田:それはあったと思います。年に何度かは、夜も眠れないような苦情が寄せられます。このときは特に父から厳しく指導され、「お前の心に隙間が空いている」と徹底して言われました。

又、お客様や業者さんからの厳しいお叱りの声も間違いなく成長につながっています。なぜなら、小浜市は街が狭いので、夏祭りや子どもの保育園など、暮らしていれば普通に皆さんとはお会いするからです。厳しい言葉をもらった人々とお会いするたびに、ご挨拶するたびに、「謙虚であれ」と自らを戒めています。僕にとっては居心地の悪い田舎ですが、自分を律する意味では良い環境だと思います。

「今の小浜には未来を感じる」地域課題の解決から持続可能な不動産運用を目指す

――平田社長は「小浜」という場所に向き合い続けている印象ですが、どのような概念で地域を捉えていますか?

平田:「小浜」には、「無限の可能性」を感じます。
小浜市に戻って来た時には、そんなことも思えず「このまちに未来はあるのか?」と感じました。単価は下がり、コストは増える。不動産関連の法律もどんどん変わっていきますし、小浜市に至っては人口が毎年200人ずつ減少しています。風向きが悪くとも、事業を縮小せず、お客様の声にお応えするためには、僕たちの業態そのものを変える必要がありました。

――業態を変更するというのは、どういうことでしょう。

平田:顧客の問題を解決すると、地域での問題を産むことがあります。その一つが「空き家問題」です。不動産会社が土地を販売し、そこへ購入者が家を立て、住宅ローンを40年返済していくと、いつのまにか空き家になっていることがあります。つまり、僕らがお客様の問題を解決していけばいくほど、結果として空き家を量産していたのです。まずは地域課題に主軸を置いて、その次にお客様の問題を解決していくと、サステナビリティ(持続可能性)のある不動産運用が可能となります。

――平田不動産では持続可能な不動産運用に向けて、どのような取り組みを考えていますか?

平田:ただ単に仲介だけをしていては、情報の断絶があり、そこからは不平・不満・思い違いを生みます。だからこそ、地域課題を解決できるビジネスモデルへと変わっていく必要がありました。

事例を挙げると、空き家ツアーです。対象は移住者ではなく、投資家です。平田不動産に売却相談があった物件を、20件ほど回ります。弊社は査定せず、投資家が入札します。結果、約半分の物件に札入れされ、実際に成約に至るのはその半数くらい。それ以外にも平田不動産が空き家を保有することも進めています。空き家を流通させる過程で、平田不動産が間に入ることにより、空き家とそれに紐づくデータが蓄積され、地元物件の活用につながるはずです。

――持続可能な不動産運用が進めば、「住宅を建てて一人前」という価値観にも影響を与えそうですね。

平田:僕が提案したいのは「住宅は必ずしも買わなくても良い」ということです。所有と使用の分離を進めていくことで、40年のローンに縛られない人生設計が可能になります。「若い人には貸家があるよ」と提案していくことで、ワンパターンな住宅ローンの人生モデルから生まれる空き家問題を無くすことにもつながるはずです。

後編へ続く

インタビュアー:WealthPark Founder & CEO 川田 隆太

株式会社 平田不動産

代表取締役社長 平田稔
福井県小浜市 四谷町 9−18
会社ホームページ: https://www.hiratafudousan.com/

<本件に関するお問い合わせ先>

株式会社 平田不動産
Contact: https://www.hiratafudousan.com/inquiry/

WealthPark株式会社 広報担当
Mail: pr@wealth-park.com

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