2022.08.05
特別対談企画(前編)ハウスコム田村氏に聞く、賃貸仲介会社と管理会社のデジタル連携で目指すビジョン
「不動産管理会社のいまを知る」をテーマに、業界をリードするゲストをお迎えし、貴重なお話をお伺いする連載企画。第15回は、「賃貸仲介会社と管理会社の連携」をテーマに、業界に先駆けてデジタルを活用した賃貸仲介サービスを展開するハウスコム株式会社 代表取締役社長執行役員 田村穂氏にお話を伺いました。
前編では、田村氏が社長に就任されるまでの経緯、ハウスコム様の成り立ちや変遷、管理会社様との連携についてお聞きしました。(前編/全2回)
ゲストプロフィール
ハウスコム株式会社 代表取締役社長執行役員 田村 穂氏
大学在学中に宅建主任者の資格を取得。その後、不動産業界での経験を経て、1994年にハウスコムに入社。営業スタッフから1年で店長に抜擢される。常務取締役営業本部長を経て、2014年3月に社長に就任。賃貸仲介業から賃貸サービス業への変革を進め、人工知能などのITテクノロジーを活用したユーザー向けサービス・プラットフォーム「マイボックス」をリリース。自社のビッグデータを活用し、オープンサービス・イノベーションラボを展開。社会・地域に貢献できる不動産テック企業を目指す。経営修士(MBA)中央大学大学院戦略経営研究科修了(榊原清則ゼミ)。2016年度、中央大学商学部客員講師に就任。
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親会社の意向により、他社の管理会社様と関係性を築くことが命題に
――今回は、賃貸仲介会社の立場で管理会社様との多角的な協働を進められてきたハウスコム様の視点から、不動産業界について語っていただけることを楽しみにしておりました。まずは、田村社長ご自身について伺いたいのですが、ハウスコム様に営業担当として入社され、内部昇格で社長に就任されてから今期で9年目を迎えられましたよね。ハウスコム様の成長と共に、田村社長が現在のポジションに至られるまでの経緯をぜひお聞かせいただけたら。
ハウスコムには、1994年に入社しました。その頃はお客様第一主義で、とにかく一生懸命に働くことが讃えられる時代。このような働き方がこのまま続くのかという問いは、自分の中に常にありました。入社から10年で店長から課長まで順調にステップアップしていき、39歳のときに親会社である大東建託グループ内でも最年少で取締役に就任しました。このポジションであればもっと生き生きと働ける職場に変えていけるのではないかと、入社時からの想いを形にするべく覚悟を決めました。
その後、近い将来にこの会社を背負う立場になることが見えてきたときに、先人達によって体系化・科学化された経営学という学問を通じて、自分や会社の進むべき道筋を整理したいと考えるようになりました。そこで、大学院に進学し、社長就任の半年後にMBAを取得しました。世の中の変化に対応しなければ、会社も業界も存続できないという危機意識が生まれており、大学院進学は次のフェーズに向けた戦略の学び直しという位置付けでした。
――まさに立身出世伝ですね。ハウスコム様は、2021年には株式会社宅都様を子会社化され、グループの直営店数は204店舗まで成長されています。田村社長の代で東証上場も果たされましたが、創業から現在までの変遷をご紹介いただけないでしょうか。
ハウスコムの原点は大東建託のリーシングの一部門で、大東建託の客付けを担っていました。客付機能を自社内に持たせ、競争力や交渉力を高めようとしていたんですね。ところが、赤字部門からなかなか脱却できず、大東建託の創業者であり、一時期は弊社の社長も務めていた多田勝美の意向で、大東建託から独立することになりました。「儲からない仕事は世の中に必要ない」という多田の強い言葉は、今でも記憶に刻まれています。
大東建託の一部門としてではなく、ハウスコムとして独立して地域の中で存在感を示していくには、大東建託以外の賃貸物件もご紹介していかなければなりません。管理会社様とも関係性を築くことが我々の命題になり、今の事業内容に至ります。
大東建託の仲介斡旋を事業目的に設立されてから20年強、ハウスコムは脱皮を重ねてきました。親会社の意向や世の中の変化を受けて、お客様から求められるサービスを提供するために、他社様の物件も扱えるようにし、仲介関連サービス事業の展開も進めてきました。こうした脱皮の連続があったからこそ、親子上場も果たせたと考えています。
管理会社様との連携は入居者様のメリットにつながる
――御社の変遷がよく理解できました。創業当初の御社の立場や時代背景からすると、他社の管理会社様との連携は難しい局面もあったかと思います。独立からこれまで、どのように信頼関係を醸成されていったのでしょうか。
当時、私は営業を束ねる立場におり、店舗に対しては「お客様により多くのお部屋を紹介することが我々の使命」だと言い続けました。「地域の管理会社様と連携して客付業社になろう」と。管理会社様に対しては、我々は大東建託からは独立した存在であり、あくまでも「入居者側のエージェント」であることを丁寧に説明し続けました。ただ、業界内で我々の立ち位置が浸透し、物件情報をいただけるようになるまでには、かなりの年数がかかりましたね。
大東建託グループの中にも管理会社はありますし、我々の仕事は管理業ではありません。大手企業であれば、建設から仲介、管理まで自社で一気通貫するビジネスモデルが成り立ちますが、中堅企業には厳しいという現実があります。お客様から見れば管理も仲介も一つの不動産業ですから、入居者様にプラスになることを一緒にやっていきましょうという姿勢を貫くことで、ようやくここまできました。
――そうした「入居者ファースト」に基づく連携の姿勢が、現在展開されている仲介関連サービスにもつながるのですね。中でもオーナー様や管理会社様から御社が物件を賃借することで、入居者様の希望に沿って初期費用額や賃料を自由に設定できる「スマートレント」は先端的でした。初期費用と賃料の償却方法の新しいデザインであり、まさにここ数年の間にアメリカで市民権を得てきたビジネスモデルと同じ視点だなと。
ありがとうございます。ただ、実のところ「スマートレント」は世の中で流行しているサブスクやリカーリングの文脈ではなく、我々のビジネスモデルに対する疑問から生まれたサービスです。我々の収益源は仲介手数料ですが、こうした成功報酬型をこのまま続けていくことは難しくなっていくでしょう。同じ物件を扱うのであれば、差別化は必須。何か違うもの、新しいものをお客様に提供しなければという発想から、お金をいただくタイミングを変える「スマートレント」に行き着いたのです。
また、こうした管理会社様と連携を深めるための施策については、いつもアイディアを巡らせています。管理会社様との連携は入居者様にメリットを提供し、最終的には管理会社様と我々の利益にもつながるからです。リーシングを引き受けることに留まらず、今後は地域の管理会社様との関係をより密にし、我々が役立つ領域においては黒子のようにサポートができたらと考えています。
ハウスコムに集約されたマーケットデータを開放していきたい
――まさに、APIエコノミーの価値観ですよね。ここ数年の話ではなく、長い年月をかけて業界内の横串を刺されてきたハウスコム様だからこそ、説得力があります。独立性や中立性を保ちながら、ときには黒子となって、管理会社様と一緒にお客様に価値を提供していきたいという姿勢が、数々のサービスの随所に見てとれます。連携に向けた他のお取り組みもご紹介いただけますか。
管理会社様と我々のような仲介会社の連携を円滑にするためには、データの共有が欠かせません。特に、仲介会社に募集をお任せしてくださる管理会社様が知りたいのは、お部屋が埋まらないときの理由です。仲介会社の担当者本人にとってはお客様が気に入らなかったポイントが明確だったとしても、管理会社様に的確にフィードバックできていないことが往々にしてあるんですよね。だからこそ、この部分をデータ化していきたいんです。現場の担当者がお客様をご案内した後に、お客様の反応をデータベース化するための仕組みをつくり、いずれはそのデータベースを開放し、管理会社様が自由に参照できるようにすることを考えています。
また、弊社が所持する物件の成約データを管理会社様に共有することも有益だと思います。例えば、募集時の賃料と実際に決まったときの賃料が異なることは、よくあるんですよね。実際に調べてみると、募集時の賃料のまま貸し出していた物件は半数以下でした。管理を行わない我々ではそうしたデータを活用できませんが、管理会社様であれば適切な家賃設定の参考になりますよね。ハウスコムにはあらゆる管理会社様の物件のデータが集約されているので、マーケットそのもののデータになります。このように、連携を円滑化していけば、物件が埋まらない理由が可視化され、管理会社様のアイディアにつながり、客付け促進になることが期待できます。管理会社様から物件データをいただいて終わりではなく、その後をフォローアップしたデータを管理会社様に再度提供することは今後も注力していきたいと考えています。
インタビュアー:WealthPark Founder & CEO 川田 隆太
ハウスコム株式会社
代表取締役社長執行役員 田村 穂
東京都港区港南2-16-1 品川イーストワンタワー9階
会社ホームページ: https://www.housecom.co.jp/
<本件に関するお問い合わせ先>
ハウスコム株式会社
代表電話番号: 03-6717-6900
WealthPark株式会社 広報担当
Mail: pr@wealth-park.com