2022.08.12
特別対談企画(後編)ハウスコム田村氏に聞く、賃貸仲介会社と管理会社のデジタル連携で目指すビジョン
「不動産管理会社のいまを知る」をテーマに、業界をリードするゲストをお迎えし、貴重なお話をお伺いする連載企画。第15回は、「賃貸仲介会社と管理会社の連携」をテーマに、業界に先駆けてデジタルを活用した賃貸仲介サービスを展開するハウスコム株式会社 代表取締役社長執行役員 田村穂氏にお話を伺いました。
後編では、田村氏が事業の成長の源泉と位置付けられている社員との対話、今後の組織のあり方、今の時代における実店舗の意義についてお聞きしました。(後編/全2回)
ゲストプロフィール
ハウスコム株式会社 代表取締役社長執行役員 田村 穂氏
大学在学中に宅建主任者の資格を取得。その後、不動産業界での経験を経て、1994年にハウスコムに入社。営業スタッフから1年で店長に抜擢される。常務取締役営業本部長を経て、2014年3月に社長に就任。賃貸仲介業から賃貸サービス業への変革を進め、人工知能などのITテクノロジーを活用したユーザー向けサービス・プラットフォーム「マイボックス」をリリース。自社のビッグデータを活用し、オープンサービス・イノベーションラボを展開。社会・地域に貢献できる不動産テック企業を目指す。経営修士(MBA)中央大学大学院戦略経営研究科修了(榊原清則ゼミ)。2016年度、中央大学商学部客員講師に就任。
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事業の成長の源泉は、千数百名の社員とのリアルな対話
――さて、ここからは組織についても伺わせてください。田村社長は、中長期スパンで会社や社員がどうあるべきか、強い意志を持って難しい舵取りをされてきています。IR資料も拝見して感じたのは、社員の働き方やワークライフハーモニー、ESGについても、社会的要請からではなく、ご自身の魂を込めて長い時間をかけて取り組まれていらっしゃるということです。その裏側にはどのようなお考えがあるのでしょうか。
根本にあるのは、「賃貸仲介業は差別化が難しい」という課題です。提供する物件自体は同じなので、結果的に「サービスをよくしましょう」、「接客をよくしましょう」という流れになっていきますよね。これによって、私の入社時と比べても個々人の接客レベルや意識は業界全体で格段にアップしました。ただ、それもそろそろ限界。多様化したお客様に対して、もう一段階上の価値を提供するには、我々も多様な人材を集めることが鍵となります。多くの多様な人材を確保し、働き続けてもらうための仕組みを構築していった結果として、新しい働き方やESGを意識した組織や制度が整ってきたのだと思います。
――田村社長が感じ取られた社会やマーケットの変化が、先端的な社内制度に注入されていくということなんですね。そうしたご自身の感覚や分析をどのように社内で伝播させていらっしゃるのでしょうか。
一番大事にしているのは、現場との対話です。コロナ前であれば千数百名の社員の顔と名前は覚えていました。店舗での対話が日常的だったからです。店舗での対話に加えて、現場担当者のアンケートは、この会社に入社してから唯一私が欠かさず目を通しているものです。そうした積み重ねによって、会社が成長してきたという自負があります。
今は意識的に多様な人材を採用していることもあり、会社の方針に対するネガティブな意見も耳に入ります。しかし、日々お客様と接しているのは彼らであり、こうしたネガティブな意見こそがお客様の本音に近い可能性もあります。だからこそ、ネガティブな意見も含めて対話することが大事だと考えています。
求心力のみで進めるのではなく、遠心力を働かせながらさらなる拡大を目指す
――千数百名の社員との対話こそが、ご自身がやってきたことであり、事業の源泉であると断言できるのは素晴らしいですね。
一方で、社長に就任してからは、現場での対話の時間を減らさざるをえないので、ここ数年は営業推進という名の組織をつくり、現場の話を吸い上げる機能を持たせていました。ただ、その方法も段々と厳しくなってきており、事業会社をいくつか設立して、それぞれの社長が決定するような仕組みを整えていくことを考えています。基本的には決定する人間と実行する人間の距離は近い方がよいのです。現場の対話がなければ、せっかくの社員の多様性も活かせませんから。
――200超の店舗を抱える規模になり、多様性のある社員の皆様とさらなる拡大を目指される上で、そうした遠心力を効かせる組織にしていく必要があるということですよね。
そうですね。例えば、大東建託の創業者である多田勝美からは、リーダーの役割は社員を前に動かすことに尽きると教わりました。その文脈では、求心力をつけるためのルール制定が重要になります。しかし、この規模の店舗数において、創業者でもない私のようなサラリーマン社長が、トップダウンで進めていくのは限界の域に達していると思います。求心力のみで進めるのではなく、遠心力を働かせなければこれ以上の拡大は難しくなっていくでしょう。
社員を型にはめる方法を採っていた時期もありましたが、今のように多様化したお客様に対応するには、社員一人一人に「らしさ」を出してもらうことの方が重要です。我々は「マニュアルがない会社」と言われていますが、トップセールスマンの行動分析をベースにしたようなマニュアルは確かに用意していません。社員が型にはまっていくと、無駄なものが省かれて組織の求心力は上がりますが、幅はなくなりますよね。実は、その無駄なところにこそビジネスチャンスがあります。現場と対話を重ね、「らしさ」や遠心力を効かせながら、求心力にしていく。このような時代の変化を受けた新しい組織のあり方を規定していきたいですね。
ハウスコムという組織は脱皮し続けており、これからも変わることができます。全体を変えるような決断は私にしかできませんので、変化に拒否反応を示す人とも対話して、時代に合わせて絶えず変化し続けたいと思います。
新しい暮らしを提案できることが、実店舗の存在価値になる
――現場の対話の起点となる人材を育成し、権限委譲し、組織に厚みを持たせていくという経営戦略の根底には、コミュニケーションを大切にされている田村社長の想いを感じます。ところで、ここ2年半の間はコロナの影響によって、現場つまり店舗の提供価値も変化していったかと思います。そのあたりはどのように感じられていらっしゃいますか。
我々が扱う物件に近い場所に店舗を設けることの重要性自体は、変わらないと考えています。コロナ前でも一時期流行した無店舗型についてリサーチはしていましたが、店舗の中にはネットでは知り得ない粘着性の強いものがあって、やはり店舗は必要というのが我々の出した結論でした。一方で、店舗はなくさないとして、店舗の中での働き方は間違いなく変わるでしょうね。
建物の情報や映像をスマホで簡単に集められる時代ではありますが、お客様が本当に知りたいのは、その建物に住んだときにどんな暮らしになるかということですよね。前の通りからの音はどのくらいか、近くにどんなお店があるのか、どんな人が住んでいるのか。お部屋の中身であればテクノロジーを活用して簡単に知ることができるからこそ、リアルな店舗がすべきことは地域に溶け込んで、お客様が未来のライフスタイルをイメージできるような情報を常に吸い上げることです。建物だけに一生懸命になるのではなく、地域に関する生の情報を伝え、お客様の新しい暮らしを提案できることが、今後のリアルな店舗の存在価値になるでしょう。AI導入で建物自体の情報収集が効率化したからこそ、浮いた時間は地域を知ることに使ってほしいのです。
DXの必要性が叫ばれるようになって久しいですが、私自身はリアルな店舗があるからこそDXが成立すると考えています。DX先行ではなく、あくまでも主人公はリアルな店舗です。その方が多様な価値をお客様にも管理会社様にも提供できるのではないでしょうか。
――時代や社会の変化に応じてテクノロジーを取り入れながら、リアルな店舗の意義や機能を再定義していくことが求められていますよね。田村社長、そしてハウスコム様の一つの解は、他の業界にとっても参考になると思います。本日はありがとうございました。
インタビュアー:WealthPark Founder & CEO 川田 隆太
ハウスコム株式会社
代表取締役社長執行役員 田村 穂
東京都港区港南2-16-1 品川イーストワンタワー9階
会社ホームページ: https://www.housecom.co.jp/
<本件に関するお問い合わせ先>
ハウスコム株式会社
代表電話番号: 03-6717-6900
WealthPark株式会社 広報担当
Mail: pr@wealth-park.com