2020.07.17
CIO鈴木の連載記事 | 米国の住宅・オフィス業界からの示唆
今回は、米国の住宅・オフィス業界の足許の動きを踏まえ、日本において筆者の考えるところをご紹介させて頂きたいと思います。
足許、新型コロナウイルスの影響が深刻な米国においては、これまではメイン(Primary)として住む家は1か所で、投資対象として2つ目を持つということでしたが、メインの家を2つ持つ(PrimaryとしてのSecond Home)という動きが出てきています。
特に新型コロナウイルスの影響が報じられるNew Yorkについては、これが顕著で、従来は投資対象でしかなかった郊外のConnecticutの物件需要が大幅に増加しているとのことです。
この流れが可能となる背景には、現在住んでいる地域は、勤務地・家族関連施設(子供の学校・家族のかかる病院や介護施設等)が近い地域であるか、住む魅力がある地域であり、完全には離れられない・離れたくないものの、生命を脅かすほど危険な地域である中、①現在の働き方につきリモートワークが可能である、若しくは、②勤務地等そのものが移転するということがあると考えています。
この①②は共に多分に企業側の意思決定次第である一方、従業員たる個人の決断に重大な影響を与えます。
この点、企業として、地方移転によるコスト削減効果を見込んで②勤務地移転を実施するということも可能性としてはありますが、フレキシブルオフィスの活用と①リモートワークの併用という流れが加速しているようです。
フレキシブルオフィスを提供する米国企業Breatherは時間単位、1週間に2日といった単位でオフィスを予約できるシステムを提供(当社によればUberを予約する程の簡単さ)していますが、同社CEOのBryan Murphyは既存のリース契約を解約しようという企業は既存リース契約が複雑且つオーナーに有利に作られている中多いとは言わないが、借り手である企業は更新等のタイミングでBreatherに切り替える流れがあるとしています。
足許、Michael Schvo(ニューヨークの不動産デベロッパー)がSan FranciscoのTransamerica Buildingsにつき当初想定価格(約700億円)での買収交渉をしていたが、10%ディスカウントで買収合意した(2020年7月8日付BISNOW)といったオフィスビルの価格下落に関する報道も出ておりますので、必ずしも郊外のみならず、コスト削減を目的に長期契約リース・オフィスビル購入により勤務地を移転する企業もあるとは思われますが、インパクトが大きい中、不確実性下の経営判断として、フレキシブルオフィスの活用と①リモートワーク併用を進めるというのは合理的のようにも思えます。
働き方のオンライン化が推進され、オフィス移転・フレキシブルオフィスの活用と企業側の選択肢も多様化する中、オフィス提供者は安全性・生産性等向上を軸に様々な不動産テック企業とのトータルパッケージでオフィスを提供することにより差別化を図り、より高い企業(テナント)満足度と賃料上昇に繋げていくものと考えています。
このような中で、米国ではHqOのように様々な不動産テック企業を一つのプラットフォームでオフィス提供者向けに纏めて提供し、インテグレーションを行う企業もあります。(表1)
表1 米国HqOが提唱するテナント満足度向上に繋がる8つの柱とプラットフォーム上で提供する具体例
人々の関心が、新型コロナウイルスの影響を受け、Space Management/Optimization、人流分析等に向かっていますので、過去の記事でご紹介させて頂いたVergesenseを含め、このようなテクノロジーを含めた提供に関心が集まることは確かですが、大枠の流れとしてはテナント満足度向上があり、その時々の状況に応じて、必要なテクノロジーを加えて提供するということかと考えています。
テック企業・近隣企業等を含めデータ開示をすることが全体最適に繋がるとしても、セキュリティその他で乗り越えなくてはならない壁は高いとは思いますが、「物理的距離が近くなくとも事業が推進可能な領域が増えることで、デジタル化を推進し、デジタル情報を、他社を巻き込んで、セキュリティを担保しつつオンライン・オフラインで活用することにより、より高い付加価値に繋げていく」という流れの中で、「フレキシブルオフィス+テクノロジー」は、特に、米国のようにLas Vegasを含め、New York、San Franciscoでなくとも様々な選択肢がある国と異なり、即座の大幅な勤務地移転の選択肢が少ない日本においてこそ、加速するのではないかと期待を込めて考えています。
【参考資料】
- Michael SchvoによるTransamerica Buildings10%ディスカウントで買収合意の記事(BISNOW)
- 米国HqOが提唱するテナント満足度向上に繋がる8つの柱とプラットフォーム上で提供する具体例