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2025.05.23

【特別対談企画 VOL. 27】組織の地力で未来をつくる──不動産と教育の交差点で描く成長戦略

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「不動産管理会社のいまを知る」をテーマに、業界をリードするゲストを迎える連載企画。第27回は、学生マンションの企画・運営を主軸に、不動産×教育分野での挑戦を続ける株式会社学生情報センター 代表取締役社長・吉野 一樹氏にお話を伺いました。現場主義と育成型の経営スタイルを貫きながら、教育と地域に新たな価値をもたらす吉野氏。その軌跡と未来戦略に迫ります。

ゲストプロフィール

株式会社学生情報センター 代表取締役社長 吉野 一樹氏
神奈川県横浜市出身。マリンリゾートの開発に携わることを志し、1991年に東急不動産に入社。入社後はリゾート部門に配属され、スキー場、ゴルフ場、ホテルなどの開発・営業・運営に幅広く関与。その後はグループ内企業にて現場営業にも従事し、リゾート分野に加えて、シニア・ヘルスケア事業など多様な分野でキャリアを重ねる。2015年から株式会社東急イーライフデザインの社長として赤字事業の再建に取り組み、会社設立以来初の黒字化を果たす。2023年に株式会社学生情報センターの取締役専務執行役員に就任、2024年より現職。趣味は学生時代から始めたヨット。休日には江の島で仲間とセーリングを楽しみ、海を眺めながらお酒を酌み交わす時間を大切にしている。

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リゾートに夢を重ねて──東急不動産での第一歩

ーーまずは、吉野社長の現職に至るまでについてお聞かせください。

私は平成3年に東急不動産へ入社しました。大学時代はヨット部に所属しており、将来はマリンリゾート開発に携わりたいと考えていました。ちょうど当時はバブルの真っ只中で、マリンリゾート開発が非常に盛んだった時代。なかでも東急不動産はその分野に最も積極的に取り組んでおり、志望理由としては十分でした。

入社後は希望通り、東急不動産のリゾート部門でキャリアをスタート。およそ20年にわたり、開発・運営・営業を一通り経験し、途中からはシニアライフ事業といったヘルスケア領域にも活動の幅を広げました。

グループ内の会社を4社も経験しているというのは、東急不動産の中でも珍しいキャリアパスだと思います。東急リゾート、東急リゾートサービス、東急イーライフデザインを経て、現在の学生情報センターが出向先としては4社目です。

挑戦が営業を変えた──現場でつかんだ手応え

ーーリゾート部門での経験を経て、営業の現場にも出向されたと伺いました。そこではどのようなことを学ばれたのでしょうか。

東急不動産には不動産営業部門がなく、グループ会社である東急リバブルや東急リゾートが担っていました。私自身は営業を避けてデベロッパーを志望したところもあるのですが、バブル崩壊の影響を受け、入社から2年半ほどで東急リゾートに出向することになったのです。若手数名と共にリゾートの販売に携わる形で移りましたが、ここでの経験が、今でも私の原点と言えるものになりました。

当時の私は、親会社から来た25歳の“若造”。現場では表面的には丁寧に接してもらう一方で、「すぐに元の会社に戻るだろう」と、どこか冷ややかに見られていた部分もあったと思います。リゾートの会員権販売を担当しましたが、営業成績は思うように伸びず、毎月掲示される成績表では下位に沈んでいました。

そんな中、現場採用の同期社員から「東急不動産組はいいよね」と言われたのをきっかけに、悔しさが芽生え、一念発起しました。やり方を教えてくれるわけでもなく、すべてが手探りの中、自分で考え、試行錯誤しながら営業に取り組む日々。最初の1件の契約が取れたことで流れが変わり、紹介も増え、半年後にはチーム内で2位にまで浮上しました。現場の社員からも「すごいですね」と声をかけてもらえるようになり、自信につながったこの経験は、私の営業の基礎を築いてくれたと思っています。

数字と現場で鍛えられた法人提案力

ーー厳しい環境下での成果がキャリアを大きく拓いていったのですね。

東急不動産の人事にも、営業現場での実績や現場社員からの評価が記録されていたと思います。それが、後の出向機会の多さにつながったのではないかと感じています。

法人営業での提案活動も、大きな学びの場でした。大手企業にプレゼンを行う際には、顧客のニーズを的確に捉えることに加え、競合他社を徹底的に分析したうえで、提案書を練り上げる必要がありました。実際に、競合5社ほどが名を連ねる中で、自社を選んでもらうには、税務面や費用計上のメリット・デメリットを含めて、細かい質問にも即答できるだけの準備が求められました。

若いなりに、情報収集やデータ分析に徹底的に取り組んだのは、この時期です。今の社員が「分析した」「勉強した」と言っていても、私の感覚ではまだまだ足りない。『孫子』の「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」という言葉が好きなのですが、まさに競合分析なしには戦えないことを、この時に痛感しました。

教えるつもりが、教えられた──現場とともに育つ

ーーその後、マネジメントの立場としてリゾートサービスでの経験を積まれたのですね。

はい。営業部長、経営企画部長と、10年間にわたり様々な役職を務めました。当時、部下の多くは現場の社員で、新人時代からOJTを徹底的に受けてきた東急不動産の文化とは異なる環境でした。資料の作り方や議案書の作法などが定着していない状況でした。

新人時代に簿記、保険、宅建といった資格を取得しないと昇格できないのが当たり前だった私にとって、つい「なぜこんなこともできないのか」と言ってしまう場面がありました。ある日、飲みの場で「私たちはそういう教育を受けてこなかった」と正直に伝えられました。「教えてくれたら覚えます」と。

この現場からの率直な声を信頼の表れとして受け止め、自分の伝え方や接し方を見直しました。その後は、資料作成やプレゼンの技術を丁寧に教え続け、1年かけて自立できるように支援しました。最終的にはサポートが不要になるまで成長し、そのとき見せてくれた達成感と感謝の気持ちは、今でも記憶に残っています。

赤字事業の再建──道徳と収益の両立を学ぶ

ーーシニア事業を運営している東急イーライフデザインでの経営改革では、特にどのような課題に取り組まれたのでしょうか。

当時のイーライフデザインは500~600人規模の組織で、看護師や介護士を中心とした運営会社でした。12年にわたり一度も黒字化しておらず、親会社からは「整理・売却も視野に入れてほしい」との方針で、私が社長として赴任しました。

ただ私は、まだ再建の余地があると判断し、「3年だけ猶予をほしい」と当時の東急不動産社長に直訴しました。当時の稼働率は6割前後、看護師夜勤も2人体制が基本で、業界平均から見ても過剰なサービス体制がコストを圧迫していました。

当然、現場からは強い反発もありましたが、「論語と算盤」──つまり道徳と収益の両立を軸に、丁寧に対話を重ねながら体制を見直し、社員の意識改革を進めました。その結果、稼働率の上昇にも寄与し、黒字化を達成。その際、社員全員に一律で臨時賞与を現金支給し、「ありがとう」と一人ずつ声をかけました。

この経験を通じて、現場の実情を理解しながら経営判断を下すことの重要性を、身をもって学びました。デベロッパー本体では得られなかった、現場密着型の経営視点です。

受け継がれる組織へ──トップのあり方を考える

ーー社長として、組織づくりや後進の育成にも力を入れてこられたと伺いました。

はい。これまでさまざまな関連会社を経験してきた中で、強く実感しているのは「トップが意識しないと人は動かない」ということです。東急不動産のような本流の組織では、従業員一人ひとりが自らの役割を理解し、目標に向かって主体的に動いてくれます。しかし、関連会社ではそうはいきません。ですから、私自身がまず旗を振る必要がありました。山本五十六長官の名言である、「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば、人は動かじ」を実践したのです。

ただし、私は「カリスマ社長」にはなりたくないと思っています。社長がいなくなったら会社が回らないというのでは、組織として永続性がありません。どんな社長でも、同じ理念、行動指針、目標を共有し、会社が安定的に運営される体制こそ理想だと考えています。

そのためにも、将来的には社長は現場の社員から選びたいと思っています。親会社から送り込まれるのではなく、社員の気持ちを理解し、現場目線で考えられる人材がトップになるべきです。今の部長や役員層から社長が生まれるような組織にしたいと考え、日々育成に取り組んでいます。

東急不動産ホールディングスグループの総合力を活かした大学支援

ーー現在、学生情報センターとしての事業戦略はどのようにお考えですか。

現在はBtoCに加えて、“BtoC+B”という形で、学生・学校を起点とした総合プラットフォーム企業を目指していきたいと思っております。また、学校や行政といった法人・公共機関との連携も強化しています。学生市場は直近10年間は進学率の上昇や留学生の増加もあり、安定しております。ただし、学生数の減少が避けられない中で、学校側の経営課題に対しても踏み込んで関与していく必要があります。

短大や女子大の縮小、大学の合併・再編、地方大学による東京進出といった動きが進む中で、私たちには学校経営に関する多くの相談が寄せられています。こうしたニーズに対して、東急不動産ホールディングスグループの総合力を活かし、不動産売却の支援だけでなく、物流施設や再生可能エネルギーの活用提案、施設・土地の管理、学校間の合併支援など、多角的な対応が可能です。

実際に、関西私立大学の寮の売却支援や、海外大学と国内女子大学の提携支援といった実績もあり、今後もグループの総力を挙げて、教育機関の経営課題の解決に貢献していきたいと考えています。

地域定着と国際化のあいだで──留学生支援の現在地

ーー「BtoC+B」展開において、課題として感じておられることはありますか。

現在、最も大きな壁は人材の不足です。特に、学校側が抱える課題に対して、踏み込んだ提案ができる人材が圧倒的に足りていません。学校寮の営業やリーシングにとどまらず、経営課題に踏み込んだ提案を行えるコンサルタント的な力が求められます。

幸い、私たちにはアルバイト支援サービス「バイトネット」やキャリア支援の仕組みがあり、東急不動産ホールディングスグループと連携したインターンシップの提案も可能です。これらをうまく活かしながら、学生の就業支援にもつなげていきたいと考えています。

ーー留学生支援や自治体との連携についても取り組まれていると伺いました。

はい。現在は中国は元より、特にベトナムをはじめとした東南アジア諸国からの留学生に注目しており、東京での不動産投資物件のご紹介など、富裕層のご家族向けのサービス提供にも力を入れています。また、留学生と地域の企業をつなぐイベントを通じて、学生の地域定着や就職支援にも取り組んでいます。

たとえば、京都や神戸では、府外・県外から入学する学生が多い一方、卒業後に地域に残る割合は非常に低く、京都では2割程度、神戸に至っては1割を切るとも言われています。結果として、地域に税収が還元されず、自治体としても「学生を地元に定着させたい」という強い課題意識があります。

そこで私たちは、地元企業と留学生をつなぐイベントを開催し、双方の魅力を発信する取り組みを進めています。学生がそのまま地域に就職・定着するきっかけとなると同時に、地域の情報を海外に発信することで、「京都で学びたい」「神戸で暮らしたい」と思う外国人を呼び込む契機にもなります。

こうした取り組みは、今後渋谷をはじめとする他地域にも広げていく方針です。住まいや就職といった機能的な支援の枠を超えて、地域社会との接点を創出することで、より価値のあるサービスを提供していきたいと考えています。

「働きやすい会社」から「働きがいのある会社」へ

ーー最後に、従業員の皆さんに向けたメッセージをお願いします。

「働きやすさ」と「働きがい」は違う──このことを、私は常に伝えています。東急不動産ホールディングスグループに加わったことで、給与水準や休日日数などの労働環境は改善され、不要不急な残業も基本的には禁止となり、制度としては働きやすい環境が整いました。

しかし、社内アンケートなどからは、「働きがいが減っている」といった声も聞かれます。本田技研工業の創業者・本田宗一郎さんや、ソニー創業者の盛田昭夫さんのように、仕事が面白くて夢中になり、「気づいたら残業していた」というような環境こそが、本来の「働きがい」ではないかと思うのです。やってもやらなくても評価が変わらない仕組みでは、意欲ある社員のモチベーションは維持できません。

だからこそ、目標設定や評価制度を見直し、「頑張った人がきちんと報われる仕組み」を整えていきたいと考えています。

私たちが目指すのは、「働きやすい会社」ではなく、「働きがいのある会社」です。そのためには、人事処遇制度の刷新はもちろん、事業戦略と人財戦略の連動が不可欠です。

最終的には、社員一人ひとりが「この会社で働いていて良かった」と心から思える組織をつくること。それが、私の社長としての最大の責任だと考えています。

ーー現場と経営の両視点を持ちながら、社員と真摯に向き合う姿勢が伝わってきました。本日はありがとうございました。

ありがとうございました。

インタビュアー:WealthPark 代表取締役 COO 手塚 健介

吉野社長のおすすめ

インタビューの締めくくりに、吉野社長から”おすすめのお店・書籍”を教えていただきました。多忙を極める吉野社長の日々の活力やリラックスの源になっている、とっておきの4選をご紹介します。

ミシュラン一つ星の京料理。清澄な雰囲気で心地よい。

一見客を平気で断る四代目親方はやる気はないが、腕は良い。

オーナーの小沢さんは高齢で東京白金の店を閉店しましたが、弟子が腕を振るまっている。ここの「オマール海老の茶わん蒸し」は絶品。

大学の教授が海軍兵学校卒でしたので、海兵出身の豊田さんの作品を読むようになった。自身も江田島にある元海軍兵学校に体験入隊したことがある。

株式会社学生情報センター

代表取締役社長 社長執行役員 吉野 一樹
〒600-8216
京都市下京区烏丸通七条下ル ニッセイ京都駅前ビル
会社ウェブサイト: https://tokyu-nasic.jp/

<本件に関するお問い合わせ先>

株式会社学生情報センター 広報室
Mail: kouhou@tokyu-nasic.jp
WealthPark株式会社 広報担当
Mail: pr@wealth-park.com

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