2022.10.07
特別対談企画(前編)会社員時代の賃貸営業の経験が、エンドユーザーを軸にビジネスを展開する発想の原点に
「不動産管理会社のいまを知る」をテーマに、業界をリードするゲストをお迎えし、貴重なお話をお伺いする連載企画。第17回は、北海道札幌市で企画・設計、施工、内装、管理まで、包括的な不動産サービスを提供する株式会社ナインホールディングス 代表取締役 高橋宏弥氏にお話を伺いました。
前編では、高橋氏が不動産会社の会社員から起業に至られた経緯、ホールディングス化までの道のり、DXに舵を切られた決意についてお話しいただきました。(前編/全2回)
ゲストプロフィール
株式会社ナインホールディングス 代表取締役 高橋宏弥氏
北海道出身。札幌地場の不動産会社での勤務を経て、より魅力的な物件の企画開発・販売を目的に、2001年に株式会社ファクター・ナインを立ち上げる。創業から20年目の2021年、ファクター・ナインをはじめとする事業会社5社による総合不動産事業を展開するべく、持株会社として株式会社ナインホールディングスを設立。顧客視点に立った包括的な不動産サービスの迅速な提供を目指す。趣味は、ゴルフ、麻雀、競馬、旅行、赤ワイン。大切にしていることは、期待を裏切らないこと。最近、『ゼビウス』のハイスコアを更新することにはまっている。
TOC
会社員時代の賃貸営業の経験が、エンドユーザーを軸にビジネスを展開する発想の原点に
――本日は札幌エリアを中心に、不動産の売買から施工、管理、営繕・修繕、ガス器具の設置・メンテナンスまで、事業会社5社によるワンストップの不動産サービスを提供されているナインホールディングス様のお話を伺えることを楽しみにしておりました。まずは、高橋社長が起業に至るまでのストーリーから伺えますでしょうか。
高橋氏:2001年にファクター・ナインを設立する前は、札幌市内の不動産会社に約10年間勤めていました。賃貸営業からスタートして一店舗の支店長を任されるようになり、市内にある30近くの他店舗と業績を競い合いながら、社内トップを目指して日々働いていました。負けず嫌いな性格が功を奏し、大きな目標を定めて達成していく営業の仕事は、楽しかったですね。
そうして5年にわたって1万室以上の賃貸物件をお客様にご案内させていただく中で見えてきたのは、不動産はエンドユーザーであるお客様のニーズを踏まえて開発しなければならないということでした。お客様の生の反応や意見に触れ、何が契約の決め手になるのか、どのような物件が必要とされているかを肌感覚でつかめることができた営業の経験は、その後の異動先の開発の仕事でも役立ちましたし、独立から現在までの私の素地になっていますね。
――エンドユーザーを軸にビジネスを展開されているナインホールディングス様の原点は、高橋社長の賃貸営業のご経験にあったのですね。ちなみに、物件のご案内からご成約につなげ、店舗全体でトップの業績を打ち出していくために、支店長という立場でどのようにチームをリードされていたのでしょうか。高橋社長の当時のマネジメントスタイルにも現在に通じる点があるのかは、気になるところです。
高橋氏:この頃の営業にはデータの収集や分析の習慣はなく、今のように緻密にまとめられた物件のプレゼン資料をお客様にワンクリックで送信するなんてことはできません。お客様と向き合い、何が求められているかを見極め、契約の決め手となる情報を自分の言葉で伝えられるスキルが求められており、言い換えれば個人の「人間力」が重要だった時代です。一方で、営業パーソンにもいろいろな人間がいます。支店長として一人一人の部下の力を底上げしていくには、まずは私のお客様との向き合い方を横で見てもらって、営業の真髄は盗んでもらう。その上で、自身の営業スタイルをつくりあげられるように、型にはめることなく、小さくてもいいから成功体験を積んでもらうことを重視していました。このように自身に合った方法論を確立してもらうことを意識したマネジメントは、今も変わらないかもしれませんね。
コンクリート物件を開発したいという想いから起業の道へ
――背中を見て学んでもらうと同時に、早い段階で裁量を与え、個人のスタイルを確立してもらうのが高橋社長流なのですね。その後、営業から開発に異動され、どのような展開で起業の道に進まれたのでしょうか。
高橋氏:開発に異動してからは、設計や施工のプロフェッショナルと協働して企画を進めていましたが、エンドユーザーである入居者様のニーズが反映されていない図面を目にすることもあって。私は設計や施工の専門知識こそありませんが、プランニングの段階から入居者様の視点を織り交ぜてスタートした方が、結果的に喜んでいただける物件が完成するという確信があったんですよね。
しかしながら、会社員でできることには制約があります。私自身は入居者様のニーズからコンクリートの高層物件を開発したいという想いを抱いていましたが、在籍していた会社は木造アパートに特化していました。会社の事業方針を一社員が変えることはできませんので、コンクリート物件のノウハウのある会社に転職するか、いっそのこと起業するかという選択を考え始めました。そこで、社長に相談してみたところ、「特例としてのれん分けの形で一つ店を与えるから、やりたいことをやってみたら」と背中を押してもらい、独立することになったんです。
――木造が一般的だった中、市場のニーズからコンクリートに着目されたことが、起業につながったのですね。それから20年、今のホールディングスに成長されるまでに、どのような変遷があったのでしょうか。
高橋氏:のれん分けで独立したファクター・ナインでは、売買仲介と新築物件の企画開発を行なっていましたが、免許を取得していない施工に関しては外注していました。ただ、お客様にとってより魅力的な物件を建てるには、施工も内製化して過程を透明化させて、建材も自社でコントロールする方が理に適っていると考え、グループ会社として設立したのがスターマンプロジェクトです。
その後、自社物件の管理はファクター・ナイン内にある管理部が担っていましたが、件数が増えてきたタイミングで、ファクター・ナインサービスとして分社化しました。さらに、営繕・修繕の件数も増えてきたことから、専門のナインワークスを設立しました。続いて、新築物件には欠かせないガス供給を行うLIG.ガスにグループ会社に入ってもらい、現在のように事業会社5社からなるホールディングスの形になりました。
ホールディングス化はスペシャリスト集団である各事業会社が力を発揮できる仕組み
――賃貸からスタートされて、ニーズに対応しながら順を追って領域を増やされていった経緯に対する理解が深まりました。一方で、同じ不動産とはいえ、仲介と施工といった時間軸や利益の出し方が異なる業種を一つの組織内でまとめ、一気通貫のビジネスモデルを成立させることは、並大抵のことではなかったのではないでしょうか。
高橋氏:まず、ホールディングス化の目的は、我々の不動産に住まわれる入居者様や購入してくださる投資家様の満足度を上げることです。今後もニーズのある事業は自社で内製化し、事業会社を増やすことを射程に入れているので、ホールディングス内の「融合」の推進は命題です。
一方で、おっしゃるとおり「融合」には多くの課題が伴い、まだまだ道半ばです。従業員としては、どうしても日々対峙している自身の部署や事業会社の業績に目が向いてしまうんですよね。不動産を扱うところは同じでも、管理、開発、施工といった利益が相反する事業の集合体であることや、人間関係の好き/嫌いといった感情面から軋轢が生まれることもあります。そこで重要になるのが、ナインホールディングスが事業会社間の情報共有をリードし、一つの組織として同じゴールに向かえる環境をつくることです。例えば、各事業会社の役員を一手に集めた全体会議を隔週で実施し、利害の衝突があれば対話を通じて平等な解決に取り組むようにしています。トップダウンで結論を出すのではなく、各事業会社の意見や主張は極力取り入れることにしているんです。
今は組織の過渡期であり、スペシャリスト集団である各事業会社が最大限に力を発揮できるように、昨年12月にホールディングス化したばかりです。今の規模からさらにスケールアップするためにも、ある程度の権限を各事業会社に委譲し、現場で起きていることはそれぞれの役員がスピード感をもって意思決定できる体制にしていきたいと考えています。
デジタルに情報を共有し、ホールディングス内の公平性を保ち、透明性を高める
――御社のような規模を維持するには、相応のガバナンスや仕組みの整備が必要ということですよね。ファクターナイングループ様は、自社の特徴の一つに「スマート×不動産」を掲げられていますが、今後のさらなる成長に向けて、どのようにデジタルを活用されていくのでしょうか。御社のDXは高橋社長自らが舵を切られたと伺っていますが、ご決断までの経緯もお聞かせいただけたら。
高橋氏:私がデジタルの活用に目覚めたのは3年前ですね。コロナ後に不動産テック協会の存在を知り、そこからたどり着いたYouTube動画で不動産テックの実態を目の当たりにし、衝撃を受けたんです。同時に、人口減が確定要素である日本で事業を展開する上で、物件数や管理戸数の増加を人員の増加に直結させないDXは、いち早く取り入れるべきものだと直感しました。また、ホールディングス化するにあたり、事業会社同士で情報を共有し、透明性と公平性を保つことは必須です。そうした将来を見据え、自ら率先してDXを進めるという強い覚悟を持って、当時の幹部陣にDXを今後の一つの軸にしていくと宣言しました。
――御社のように、事業が順調に成長し、オペレーションも確立しているタイミングでDXのような新しい取り組みを導入しようとすると、まず社内の理解を得ることに苦労したという事例をよく耳にします。御社のDXの成功には、高橋社長自らが大きなビジョンと覚悟のもとに決断されたところに秘訣がありそうです。
高橋氏:いえいえ、直感と覚悟はあってもITの知見はないので、実際に何から手をつけてよいのかがわからなくて。できることから始めてみたというのが正直なところです。ただ、戦略ばかりに時間を割かずにまずトライしてみたことが、弊社にとっては正解だったのかもしれません。
ここからは、グループ内のDXをリードしてくれたファクター・ナインサービスの取締役営業部長である村本に、具体的な事例を紹介してもらいましょう。
インタビュアー:WealthPark Founder & CEO 川田 隆太
株式会社ナインホールディングス
代表取締役 高橋宏弥
札幌市中央区南2条西25丁目1-2 factor9ビル
会社ホームページ: https://www.9hd.co.jp/
<本件に関するお問い合わせ先>
株式会社ナインホールディングス
Contact: https://www.9hd.co.jp/form/contact_input.html
WealthPark株式会社 広報担当
Mail: pr@wealth-park.com